2011年03月29日
島の本棚~ほんのむしぼし~Vol.004
沖縄・宮古島にこだわって、あれやこれやとWEBからお届けしている「あんちーかんちー」ですが、無限の知恵の泉である「本」にはどんなに逆立ちしても到底かないません。沖縄の宮古の面白さや楽しさ、感動や感激を教えてれる、そんな素敵な叡智がいっぱい詰まった島の本たちを紹介して来た「島の本棚」シリーズもSeason4を数え、さまざまな人たちに色々な島に関する本を紹介していただきました。
Season4を担当してくださるjurim(ゆりむ)さんの4回目のテーマは、「伝えたいもの・伝える心」です。それではお楽しみください!。
※ ※ ※ ※
こどもたちのオキナワ 1955-1965
大正生まれ(1918年-)。いまも現役で活躍されている那覇市出身の写真家・山田實氏が、10年前に満を持して発表した写真集。著者は若い頃に土門拳の『筑豊のこどもたち』に強く影響を受け、いつか沖縄の子供たちの姿を本にまとめたいと思い続けてきたそうです。
未曾有の地上戦が繰り広げられた沖縄戦を経て、焼け野原から徐々に復興してゆく島。そこで生活している子供たちの日常風景が、いきいきと描写されています。戦後の困難な時代なのに、彼らの表情の、なんと誇り高く生命感に溢れていることでしょう。
本書の随所に登場するのが、背負いひもで赤ちゃんをしょいながら遊んだり、慣れた手つきで親の手助けをする子供たちの姿。手にしているのは、貝や小石のおはじき、メンコなど。モノクロの写真を見ていると、子供たちの歓声が今にも聞こえてきそうです。
もう今では、こんな風景を見ることはほとんどなくなりました。モノと情報に溢れた現代の子供たちに、この写真集はいったいどう映るのかな、という思いが頭をかすめます。
本の巻末に山田氏ご本人のポートレイトも掲載されていますが、とても優しい目をしておられます。レンズ越しに子供たちと山田氏の心が響き合った一瞬一瞬が、この本にたくさん収められているのです。
やぎの冒険 リュウヤのしごと
昨年公開され、沖縄じゅうの話題をさらった“中学生映画監督” 仲村颯悟(なかむらりゅうご)くんの長編作『やぎの冒険』。この絵本は、その中に登場する、やんばるの少年リュウヤをフィーチャーした、いわゆるスピンオフ(番外編)です。
「りゅうやのしごとは やぎのせわ おいしい おにくに そだってね」―。家で飼っているやぎは、いずれ人間の食べるお肉になるんだよと家族から聞かされながら、世話に精を出すリュウヤ。沖縄の太陽の光のような明るい色彩で、彼の暮らしが描かれていきます。
特筆すべきは、数ページを割いて「とちく(屠畜)」のようすがきちんと紹介されていること。子供たちに、ふだん食べているお肉はこうして届くんだよ、わたしたちは、こうして命をいただいているんだよ、ということを、映画とは違ったストレートな表現で見せてくれます。
最後は、手塩にかけて育てた子やぎとの別れのシーン。軽トラックの荷台に乗せられ、遠くなってゆくやぎ。めえ、めえ、めえ・・・とやぎの声。リュウヤの泣き顔のアップ。わかってはいても、やはり切ないのです。そして、少年はまた、新しい命の世話役となります。
家族で「食べるということ、生きるということ」について考えるとき、手にしてみてほしい一冊です。
[関連リンク]
映画「やぎの冒険」オフィシャルサイト
一粒の種 命のうた、見送りのうた
宮古島出身の砂川恵理歌さんが、聴く人を包み込むような優しい声で歌いロングヒットを続ける「一粒の種」。この本は、その歌の誕生に立ち会った方々の思いをのせたフォトブック。写真は『アジアン・ジャパニーズ』シリーズなどで知られる小林紀晴さん。長野など各地で撮影された風景に歌詞が重ねられ、静かにその意味をかみしめながら読みたくなる本です。
生まれ島を離れ、本土で看護師として働く高橋尚子さん。彼女は、中島正人さんという末期がん患者のつぶやきを心に留め、彼の死後に一編の詩を書きました。それが宮古島出身者でつくるメールマガジンに投稿されたのが2004年のこと。高橋さんはやがて、みゃーくふつシンガー・下地勇さんに曲をつくってほしいと依頼します・・・。
それぞれの綴った文章から、彼らがまるで本当にひとつの命を育むかのように、大切にこの歌をつくりあげていったこと、そしてそれが恵理歌さんに託され、多くの人の共感を得てゆくようすが記されています。
この春、沖縄国際映画祭の地域発信型プロジェクトとして公開中のドキュメント映画『一粒の種 ~真太陽の島の大合唱』の撮影に、先日子供たちと参加しました。企画者の予想を遥かに超える336名もの賛同者がマティダ市民劇場に集まり、いろいろな世代が全員で歌う姿を生で見て、まさに鳥肌の立つような感動を覚え、この歌の持つ力を感じました。
今、日本は大きく揺り動かされ、誰もが喪失感や無力感を味わいながらも前へ進もうと懸命に生きています。失われた多くの命、その悲しみを抱えつつ日々を送る人々に、改めて歌に込められた再生へのメッセージが届くよう願ってやみません。
[関連リンク]
第三回沖縄国際映画祭/一粒の種
【書籍データ】
「こどもたちのオキナワ 1955-1965」
山田實 株式会社池宮商会
発刊日 2002年4月15日
ISBN 4-87180-017-2
「やぎの冒険 リュウヤのしごと」
監修/仲村颯悟 編著/バラエティ・アートワークス絵本制作班
株式会社バラエティ・アートワークス
発刊日 2010年9月11日
ISBN 978-4-86365-033-6
「一粒の種 命のうた、見送りのうた」
著者/砂川恵理歌・中島正人・高橋尚子・下地勇
写真/小林紀晴 ヨシモトブックス
発刊日 2011年2月2日
ISBN 978-4-8470-1958-6
[jurim]
ゆりむ。1970年宮古島生まれ。本は平一小学校時代に学校図書館で一生分読んだような気がする、読書家ではない、ただの本好き。
[島の本棚] バックナンバーはコチラ
Season1 「島の本棚~宮古島を読む」
myklibvo1/2009年3月~7月隔月掲載 全三回
Season2 「島の本棚~Read Or Dreams」
沖縄教販宮古店/2009年9月~2010年1月隔月掲載 全三回
Season3 「島の本棚~NIGHT OF GOLD」
密牙古文化部/2010年4月~2010年10月不定期掲載 全四回
Season4 「島の本棚~ほんのむしぼし」
ブックセレクター・jurim(ゆりむ)/2010年11月~2011年3月 不定期連載 全四回
※今回をもって、「島の本棚」シリーズは一応の最終回となります。ご愛読ありがまとうこざいました。尚、「宮古島発信!あんちーかんちー」は、4月からもまだまだ続きます!。お楽しみに~!。
(文+写真:jurim 写真+編集:モリヤダイスケ)
本書の随所に登場するのが、背負いひもで赤ちゃんをしょいながら遊んだり、慣れた手つきで親の手助けをする子供たちの姿。手にしているのは、貝や小石のおはじき、メンコなど。モノクロの写真を見ていると、子供たちの歓声が今にも聞こえてきそうです。
もう今では、こんな風景を見ることはほとんどなくなりました。モノと情報に溢れた現代の子供たちに、この写真集はいったいどう映るのかな、という思いが頭をかすめます。
本の巻末に山田氏ご本人のポートレイトも掲載されていますが、とても優しい目をしておられます。レンズ越しに子供たちと山田氏の心が響き合った一瞬一瞬が、この本にたくさん収められているのです。
やぎの冒険 リュウヤのしごと
昨年公開され、沖縄じゅうの話題をさらった“中学生映画監督” 仲村颯悟(なかむらりゅうご)くんの長編作『やぎの冒険』。この絵本は、その中に登場する、やんばるの少年リュウヤをフィーチャーした、いわゆるスピンオフ(番外編)です。
「りゅうやのしごとは やぎのせわ おいしい おにくに そだってね」―。家で飼っているやぎは、いずれ人間の食べるお肉になるんだよと家族から聞かされながら、世話に精を出すリュウヤ。沖縄の太陽の光のような明るい色彩で、彼の暮らしが描かれていきます。
特筆すべきは、数ページを割いて「とちく(屠畜)」のようすがきちんと紹介されていること。子供たちに、ふだん食べているお肉はこうして届くんだよ、わたしたちは、こうして命をいただいているんだよ、ということを、映画とは違ったストレートな表現で見せてくれます。
最後は、手塩にかけて育てた子やぎとの別れのシーン。軽トラックの荷台に乗せられ、遠くなってゆくやぎ。めえ、めえ、めえ・・・とやぎの声。リュウヤの泣き顔のアップ。わかってはいても、やはり切ないのです。そして、少年はまた、新しい命の世話役となります。
家族で「食べるということ、生きるということ」について考えるとき、手にしてみてほしい一冊です。
[関連リンク]
映画「やぎの冒険」オフィシャルサイト
一粒の種 命のうた、見送りのうた
宮古島出身の砂川恵理歌さんが、聴く人を包み込むような優しい声で歌いロングヒットを続ける「一粒の種」。この本は、その歌の誕生に立ち会った方々の思いをのせたフォトブック。写真は『アジアン・ジャパニーズ』シリーズなどで知られる小林紀晴さん。長野など各地で撮影された風景に歌詞が重ねられ、静かにその意味をかみしめながら読みたくなる本です。
生まれ島を離れ、本土で看護師として働く高橋尚子さん。彼女は、中島正人さんという末期がん患者のつぶやきを心に留め、彼の死後に一編の詩を書きました。それが宮古島出身者でつくるメールマガジンに投稿されたのが2004年のこと。高橋さんはやがて、みゃーくふつシンガー・下地勇さんに曲をつくってほしいと依頼します・・・。
それぞれの綴った文章から、彼らがまるで本当にひとつの命を育むかのように、大切にこの歌をつくりあげていったこと、そしてそれが恵理歌さんに託され、多くの人の共感を得てゆくようすが記されています。
この春、沖縄国際映画祭の地域発信型プロジェクトとして公開中のドキュメント映画『一粒の種 ~真太陽の島の大合唱』の撮影に、先日子供たちと参加しました。企画者の予想を遥かに超える336名もの賛同者がマティダ市民劇場に集まり、いろいろな世代が全員で歌う姿を生で見て、まさに鳥肌の立つような感動を覚え、この歌の持つ力を感じました。
今、日本は大きく揺り動かされ、誰もが喪失感や無力感を味わいながらも前へ進もうと懸命に生きています。失われた多くの命、その悲しみを抱えつつ日々を送る人々に、改めて歌に込められた再生へのメッセージが届くよう願ってやみません。
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第三回沖縄国際映画祭/一粒の種
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【書籍データ】
「こどもたちのオキナワ 1955-1965」
山田實 株式会社池宮商会
発刊日 2002年4月15日
ISBN 4-87180-017-2
「やぎの冒険 リュウヤのしごと」
監修/仲村颯悟 編著/バラエティ・アートワークス絵本制作班
株式会社バラエティ・アートワークス
発刊日 2010年9月11日
ISBN 978-4-86365-033-6
「一粒の種 命のうた、見送りのうた」
著者/砂川恵理歌・中島正人・高橋尚子・下地勇
写真/小林紀晴 ヨシモトブックス
発刊日 2011年2月2日
ISBN 978-4-8470-1958-6
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[jurim]
ゆりむ。1970年宮古島生まれ。本は平一小学校時代に学校図書館で一生分読んだような気がする、読書家ではない、ただの本好き。
[島の本棚] バックナンバーはコチラ
Season1 「島の本棚~宮古島を読む」
myklibvo1/2009年3月~7月隔月掲載 全三回
Season2 「島の本棚~Read Or Dreams」
沖縄教販宮古店/2009年9月~2010年1月隔月掲載 全三回
Season3 「島の本棚~NIGHT OF GOLD」
密牙古文化部/2010年4月~2010年10月不定期掲載 全四回
Season4 「島の本棚~ほんのむしぼし」
ブックセレクター・jurim(ゆりむ)/2010年11月~2011年3月 不定期連載 全四回
※今回をもって、「島の本棚」シリーズは一応の最終回となります。ご愛読ありがまとうこざいました。尚、「宮古島発信!あんちーかんちー」は、4月からもまだまだ続きます!。お楽しみに~!。
(文+写真:jurim 写真+編集:モリヤダイスケ)
Posted by あんちーかんちー編集室 at 09:00│Comments(0)
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