島の本棚~ほんのむしぼし~Vol.002

あんちーかんちー編集室

2010年12月31日 09:00


明るいブルーの空、深く蒼い海、鮮やかな彩りの草花に囲まれた南の島。沖縄を語るときに挙げられる、こうした決まり文句たち。しかし、それだけでは語りつくせない、島に生きる人々のドラマがある。今回の3冊に共通するテーマは「ダークサイド・オブ・ミヤコ/オキナワ」。勝手にブックセレクター・jurim(ゆりむ)が独断で選びました。読後、あなたはブルーになるか、不思議なカタルシスを感じるか・・・。果たして。

※    ※    ※

メタボラ

人気作家・桐野夏生さんが、朝日新聞紙上で2005年から約1年間にわたって連載した長編小説。物語は、やんばるの森の中で、記憶を失いさまよっていた〈僕〉が、伊良部昭光(アキンツ)という宮古島の青年と出会うところから始まります。
〈僕〉は、おそらく本土の出身。モテ系で放蕩息子のアキンツは、親に無理やり、やんばるのフリースクールに送り込まれ、そこから逃げて来たらしい。沖縄本島の北部から南へ向けて、奇妙な道中がスタート。ふたりの青年の人となりが、徐々に浮かび上がってきます。
とにかくユニークなのが、アキンツの憎めないキャラクター。「すんきゃー」だの「さいが」だの、ちょっと懐かしめの宮古の若者言葉が彼の口からポンポン出てきます。きっと作者は『読めば宮古!』あたりの文献を参考に書いたのでは、と思う部分もちらほら。ただ全体的な舞台は沖縄本島で、2000年代の沖縄/日本で顕在化してきた様々な事象が、てんこ盛りといってよいほど詰め込まれています。
例えばそれは、労働派遣の問題や、自分探しの若者たちと彼らにとってのカリスマ、移住者と地元の人間関係など・・・。個人的には、戦争の傷を抱えてひっそりと暮らす石材店の専務のエピソードに胸が痛みました。
この作品が早いうちに映画化されないかなあ、と心待ちにしているのは、私だけではないはず。もう私の脳内キャスティングはほぼ出来上がっていて、主演の〈僕〉=新井浩文、アキンツ=高良健吾もしくは満島真之介なんてどうでしょうか。監督は「アコークロー」の岸本司さんにお願いしたい・・・と、勝手な構想が止まりません。

異物

「沖縄へ移住した作家が放つ問題作。南の島に癒しはあるのか?」と、エヴァンゲリオン風に文字が躍る帯が気になり、手にとりました。
近所のオジーに、愛犬を捕まえられて肉を喰われたのではないか―と疑念を持つ主人公が、ある行動を起こす「客地の犬」。空き地に放置された女性の遺体を、やがて見学者に解説するようになる男の独白「汀のガイド」。妻と一緒に島の小さな集落に移住してはきたものの、“シマ社会”に強烈な違和感を感じつつ生活するしかない男のもとへ、訳あり風情の男女がやってくる「異物」。成り行きで、ある島へ住むようになった男と、故郷の父親の関わりを描く「謝罪」。
4編とも、場所の特定はされていないのですが、島の風景は宮古そのもの。生まれも育ちも宮古島の私からすれば、外から来た人の目を通すと、私たちの暮らしや風習は時にこんなふうに見えるのだな、と気づく部分もありました。誰かが以前評していましたが、南米の呪術的風味もまぶされたような作品です。
生まれた土地で親戚縁者に囲まれて生活する~ハワイ風にいえば「ロコ」の私たちは、居心地は良いものの、色々なしがらみに絡め取られて思うように動けないのも現実です。本土から宮古へ移住して来られて、そうした複雑さから解放されて気ままに生きている(ように見える)方々も、ある面では私たちには計り知れない生き難さや寄る辺なき思いを抱えているのかもしれません。移住者の知人たちとは、あまり深い話をしたことはありませんが、いつか、そのあたりを腹を割って話せる人に出会いたいものです。

cocoon(コクーン)

今年読んだマンガの中で、最も心に残った11冊。著者の今日マチ子さんは、さらりとした描画の散文的な作風が魅力で、「みかこさん」 「センネン画報」など紙媒体やネットでも活躍しています。そんな彼女が(ここでもはっきりとは書かれていないけれど)沖縄戦と少女たちをモチーフにした新作を発表したというので、これはもう買うしかない!と即購入したのでした。
時代設定は戦時下。主人公の少女サンは、東京から何らかの事情で引っ越してきたボーイッシュな転校生マユと仲良しになります。戦況が厳しくなり、少女たちは日本軍の看護隊として従事することになるのですが、それは夢のような学園生活とは一変した、過酷で凄惨な現場でした・・・。ひとりまたひとりと命を落としてゆく級友たち。そして、いつも優しくサンを見守ってきたマユの、ある秘密が明かされます。少女の視点で描かれたダーク・ファンタジーともいえ、スペイン内戦時を描いた映画「パンズ・ラビリンス」などをちょっと思い起こしました。
新聞記事によれば、この作品は、沖縄出身の若い女性編集者の強い思いによって生まれたものだそうです。今日マチ子さんのあとがきからも、表現者としての決意を感じました。作品が出来上がるまでに、2人の間にどんなやりとりがあったのだろうと想像します。彼女たちがこうして、戦争という大変難しいテーマを自分なりに伝えていこうとしていることが心強く、いつまでも応援していきたいと思うのです。

※    ※    ※

[書籍データ]
「メタボラ」
桐野夏生 朝日新聞社
発刊日 2007年5月30日
ISBN 978-4-02-250279-7

「異物」
永坂壽 ガイア・オペレーションズ
発刊日 2006年10月9日
ISBN 4-902382-01-6

「cocoon」(コクーン)
今日マチ子 秋田書店
発刊日 2010年8月20日
ISBN 978-4-253-10490-6

※    ※    ※

[島の本棚] バックナンバーはコチラ
Season1 「島の本棚~宮古島を読む」
 myklibvo1/2009年3月~7月隔月掲載 全三回
Season2 「島の本棚~Read Or Dreams」
 沖縄教販宮古店/2009年9月~2010年1月隔月掲載 全三回
Season3 「島の本棚~NIGHT OF GOLD」
 密牙古文化部/2010年4月~2010年10月不定期掲載 全四回
Season4 「島の本棚~ほんのむしぼし」
 ブックセレクター・jurim(ゆりむ)/2010年11月~ 連載中 
(文+写真:jurim 写真+編集:モリヤダイスケ)
関連記事