島尻のパーントゥ
独特の臭気を放つ泥をキャーン(蔓草)とともに全身にまとった、親(ウヤ)、中(ナカ)、子(ファ)の三体の神様が、厄を払いに集落へとやってくる宮古島の島尻地区に伝わる奇祭「パーントゥ」。
正式には「パーントゥ・プナハ」と呼ばれ、国の重要無形民俗文化財(1993年)に指定されています。
島尻の集落でおこなわれる「プナハ」という行事が、旧暦の3月・6月・9月にあり、その締めくくりにパーントゥが一年の厄を落しに現われるのだそうです。
パーントゥに泥を塗られることは、厄を落とし無病息災をもたらすとされていますが、あまりに臭い泥の臭いと、神様とは思えぬ奇異な姿でやってくるパーントゥから、人々が逃げ惑うゲーム感覚を楽しむ点が人気で観光客にも親しまれています。
その怪しい異形から姿妖怪とか化け物と思われがちですが、パーントゥはれっきとした神様なのです。
数百年前、島尻の北側にあるクバマ(クバ浜)に、クバの葉で包まれた面が流れ着いたことが始まりとされます。
このいいつたえから想像するに、パーントゥは渡来神と考えられ、まるでポリネシアの祭りのような、トカラ列島の悪石島の
ボゼや、長い鼻をした奇抜な仮面の扮装をした甑島の
トシドン(祭りの形式はナマハゲに類似)。鬼の面をかぶり縄で叩き廻って厄除けをする島根県松江市島根町野波地区の
ガッチ祭り、怠惰を戒める鬼の
アマメハギ(能登半島・輪島市)、勤労を奨める鬼の
アマハゲ(山形県庄内・遊佐町など)、怠け者を懲らしめ災いを払う
ナマハゲ(秋田県・男鹿半島)などなど、祭りの形態や仮面の扮装、いいつたえなどは土地によってさまざまですが、どことなくパーントゥにも通ずる雰囲気が見え、南の海から遥か海流に乗って漂流して来た"モノ"ように思えます。
また、ナマハゲのモデルのひとつには、祭りのそういった類似性から、異形で異なる言葉を話す、外国人(白人)が流れついたという説もあり、異形に畏敬を感じて神格化したのかも知れません。広大な海を通して繋がっているかもしれないという妄想がかきたてられ、壮大なロマンを感じました。
集落の中心地ともいえる島尻購買店前では、パーントゥに参加するべく集まった人々が、そわそわしながら始まるのを待っています。夕方前、三体のパーントゥはウマリガー(生まれ井戸)から生まれ、集落へとその姿を現します。
パーントゥは島尻集落の伝統行事ではありますが、近年はその奇祭を楽しみに、たくさんの観光客が訪れイベント化しつつあり、本来なら神聖な神事であるはずの部分へも、物見遊山のまま接近する人々が多く、民俗伝承とのかかわり方を踏まえて参加する必要があるのではないかと、年々イベント化してゆくパーントゥを見ていて少し考えさせられました。
集落の長老たちがいるムトゥ家へ現われたパーントゥは酒を振舞われます。車座になって長老たちから接待を受けたパーントゥは、いよいよ集落内へと繰り出して人々に泥をつけて回り始めます。
近づくパーントゥにおののき、歓声とも悲鳴ともいえそうな声をあげて、脱兎のごとく逃げだす子供たち。突如、方向転換して抱きつき攻撃で、泥をなすりつけてくるパーントゥに驚き慌てふためく大人たち。親たちに抱きかかえられた幼児は、パーントゥの奇異な姿を見ただけで怖さから泣き叫びます。しかし、パーントゥはそんな幼児たちには、必ずといっていいほど近づいてゆき、時に優しく、時に激しく、しっかりと厄払いの泥を塗りつけてます。ここで抱きかかえている大人は、必ず巻き添えを喰らうのはお約束だったりします。
パーントゥは神様なので中の人はいないことになっていますが、今年のパーントゥはどことなく、体に巻きつけたキャーン(シイノキカズラ)が、アメフトのプロテクターのような格好でちょっとマッチョ風になっていました。どうやら泥が体に絡みやすく工夫されているようです。また、泥の臭いのレベルが近年まれに見る強烈な臭さになっていました。パーントゥが集落を縦横無尽に闊歩するににつれ、集落全体が激しい臭気に包まれていました。
いつしか夕暮れから夜へと移り、あたりの闇が濃くなるにつれ、パーントゥが暗がりに同化して来ました。今よりもほんの少し前、まだ電気などが普及していない、夜の闇がもっと黒々としてい頃、集落の人々のパーントゥを畏怖する気持ちは遥かに強かったこと云われています。時は流れ移り変わった現在でも、感じることの出来るパーントゥの本領が発揮される時刻がやってきました。
夜は更け、暗がりの集落を行くパーントゥ。今夜の島尻はその畏敬と畏怖に支配されてゆきます。
パーントゥ パーントゥ ピンギレ~ ピンギレ~
怖いけど 怖いけど ホントはとても優しい神様
「パーントゥの歌」 by パニパニガールズより
◆奇祭パーントゥへの参加について
まず、この祭りへ参加する場合、泥を塗られて汚れてもかまわない格好で、参加するようにしましょう。臭い泥がついた服は、洗濯をしてもなかなか落ちません。
祭りの日取りは旧暦の九月の戌の日の前後(2008年の開催は10月26日~27日)で、神職者と自治会によって日程が調整されるため、年によって開催日はことなりますので、島外からは参加する場合は、宮古島の情報に目を光らせておきましょう(近年は
観光協会などから告知されるようになりました)。
(文+写真+編集:モリヤダイスケ)
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