reef sound -来間島歳時記- №007

あんちーかんちー編集室

2010年10月01日 09:00


離島の離島、来間島の秋は大運動会。“葉っぱのつぶやき”第7話は、「来間幼稚園小学校中学校・来間地区合同大運動会」の話題で大盛り上がりします。それでは素敵な島の運動会をお楽しみください!。


去った9月12日の日曜日。澄みわたった青空の下、来間島で運動会が行われました。島の運動会はひと味もふた味も違う、島ならではの運動会なのです。
『来間幼稚園小学校中学校・来間地区合同大運動会』。最大の特長はその名前の通り、学校だけの運動会ではなく、地域のみなさんとの一緒の運動会という来間島ならではのスタイルで、島を東西に分けての対抗戦になっているのです。
集落を東西に二分する通りのどちらに住んでいるかで運動会の組み分けが決まっていて、私たち砂川家は西組になります。ここ数年、東組の優勝が続いています。
理由は東と西の人口差。東組のエリアに団地が出来たり、Iターンの方が家を建てたりと、運動会のパワーバランスを崩す勢いで特に若者の人口が著しく増加しており、西組は今年こそはリベンジと、密かに燃えているのだ。
東西で人口差があるといっても、おじぃおばぁに云わせれば、昔に比べたら島の人口は大きく減ってしまったので、賑やかさや華やかさは今の比ではなく、本土復帰前の頃は集落を四分割した四組で競い合い、運動会の朝は御嶽に詣でて必勝を祈願して、まさに我が組の威信をかけて挑む対抗戦だったのだという。
優勝だリベンジだと書いていますが、学生時代から私は運動会と聞くだけで、憂鬱で憂鬱で、嫌で嫌でたまらなかった。ビリになるのは必須だったし、走る前から言い訳を考えているような子供だった。靴が脱げそうになった、とかさ(笑)。
だけど、来間島ではホントに誰もが待ちに待った運動会で、誰もが張り切っている。老人クラブも婦人会も数日前から踊りの練習に余念がなく、3日前には集落民総出で運動場の清掃をし、万国旗を揚げてこの日を迎えるのだ。
刈り込まれた緑の芝生の運動場に集まる島の人は白いシャツに運動靴、子供のような笑顔に溢れている。優勝旗を掲げた東組の長の顔はキリリとしている。勿論、園児、児童、生徒らも緊張した面持ちながら、その瞳はキラキラと輝いている。
そう。島の運動会は一年に一度の晴れ舞台。この緑のステージでは赤ちゃんもお年寄りも、ひとりひとりが輝く特別な日なのだ。
幼稚園児から小学生、そして中学生へと全員参加でタスキをつなぐパニパニリレーは、子供たち自身が考える障害物リレーで、毎年その内容が違う余興的な楽しみがある。今年は小麦粉の中からあめ玉を探したり、お尻で風船を割ったり、ラグビーボールを蹴り進んだりと多彩な内容だ。この競争は足の速さだけで勝敗が決まるものではなく、思わぬハプニングがあったりして、最後までレースから目が離せない面白さがあって毎年楽しみな競技なのだ。
島の人も、郷友会の人も、来間のどの子のこともわけ隔てなく応援してくれる。私の娘を皆が名前を呼んで応援してくれる。それは本当に嬉しいことだ。だから私も娘も、島のどの子も目いっぱい応援をする。運動会の一番の呼び物にして、島の人が一番の楽しみは子供たちのエイサーだ。人数は少ないが、勇壮で息のあった演舞は、大きな学校にも決してひけをとらない。
小学生だった子が中学生になって今年から大太鼓を担いでいる姿の頼もしさ、見よう見まねながらも必死にパーランクーを叩きまくる小さな園児の微笑ましさ。島中で見守ってきた子ども達の成長ぶりに驚き、たくましさや頼もしさを感じ、胸が熱くなる瞬間だ。

そんな子どもたちの頑張りがあれば、父ちゃんや母ちゃんも、オジィやオバァたち大人たちも負けてはいられない・・・。とは云ったものの万年運動音痴の私は、「リレーは誰が走る?」という会話が始まるとさっさとずらかりたい気持ちになる。だけど、ここで逃げられないのが島の嫁の掟なのだ。西組に嫁いできた者の宿命と云うか使命と云うか、遅かろうが早かろうが、若手不足、人材不足の西組では、必然的に借り出されて当然のように走らされてしまうのだ。

西組のゼッケンを付けていると、オジィやオバァが嬉しそうに「葉子は選手かあ?」と聞いてくる。何ともこ小っ恥ずかしい気持ちになってしまう。いやいや、選手なんて大それたものではなくて、単に走る人がいないから数合わせだけなんですぅ・・・と心の中で言い訳しながら曖昧に笑っておく。
オジィやオバァが必勝祈願をしてた時代の運動会では、選手になることは本人とっても家族にとっても誇らしい出来事だったのだろうなあ。その名残なんだと思うけど、私が走るとなると義父母はやっぱり嬉しそうだもんね。
数合わせだろうが何だろうか、西組の威信を賭けて嫁は走ります。走れ!走れ!。日頃の運動不足もたたってゴールにたどり着く前に、途中で頭と体がバラバラになってぶっ倒れそうな気分だけどね。
でも、走るって気持ちいい。大役(あるいは代役)を終えて、ホッとした気持ちもあるんだろうけど、息を切らしながら見上げる空の美しさや、息切れのせいでひと言も口が聞けない様を、肩を叩きながらお互い笑いあったり、汗ばんだ額を通り抜ける涼やかな風やらが心底気持ちがいいなあと思う。
そして客席に戻るとオジィオバァが拍手で迎えてくれる。「ごめーん。葉子、ビリだったよー」と云うと、「いやあ、葉子が一番よー」と返される。ホントにビリだったんだけどね。分かっていながらも誉めてくれるオジィとオバァ。ありがとうね(照)。

真剣勝負の四組対抗戦だった頃に比べると、近年の島の運動会の競技内容はかなり余興色の濃いものに変わっていたらしいけど、総員リレーや俵担ぎリレー、50メートル走といったまじめな競技も沢山あります。それなのにガチンコの夫婦対決があったり、不意に転んで笑いを誘ってみせたり、方言が爆裂する場内アナウンスもくわわって、笑いっぱなしになるのが来間島らしい運動会です。
老人クラブの余興として、踊りやゲートボール競技、孫・子供・祖父母とバトンをつなぐ三代リレーなど、オジィオバァが活躍する競技もある。中でもオジィオバァらが奮闘する縄ないリレーは、茅をなってできた縄の長さを競う競技で、若手選手ではなかなか務まらない。地味ながらもこの競技はオジィオバァらが奮闘し、次から次に縄がなわれていく様にただただ感心しながからも、事前に自らがなうための茅を用意しておく、したたかなオジィがいるなど、白熱したバトルが繰り広げられます。

運動会の最後を飾るのは島の運動会の名物の東西大綱引き。勿論、東組と西組の対戦だ。今日一日競いあってきた東組と西組だが、この競技だけは白黒をつけない。二本勝負で毎年引き分けで終わる。最初に東組が勝てば二本目は西組が勝ち、最初に西組が勝てば次は東組と、引き分けたところで終了となる。勝敗を決めず引き分けることで、今年は豊作でもあり豊漁でもあると吉兆を示す。
そしてそれを喜んでいると終わりを告げるクイチャーが流れだし、運動場いっぱいに広がった大きな円になって島の運動会を締めくくります。
閉会式が執り行われ、今年の優勝はまたしても東組。悲願である西組のリベンジは、また来年までお預けとなってしまった。そして私も徳さんも今年は三種目づつ走り、明後日からの筋肉痛にきっと悩まされるのだ(滝汗)。

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砂川葉子(すなかわようこ)
1975年生まれ 岐阜県出身。
2000年に宮古・来間島へ来島。縁あって農家の「嫁」となり、徳さん(ダンナ)、娘(4歳)、息子(2歳)の4人で力をあわせ、のんびり楽しく島に根付いた暮らしをしています。
徳さん(ダンナ)
生まれも育ちも来間島のダンナは、良くいえばマイペース。明日、地球が滅亡するっと世界中がパニックになっていても、ふらっとひとりで釣り(特にイカ釣りに熱中)に出かけてしまうような人。

「来間島・徳さんちのごうら畑」
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(文+写真:砂川葉子 編集:モリヤダイスケ)
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