この季節の島の風物詩となっているキビ倒し(キビ刈り)。島言葉ではブーズナギとも表現される、サトウキビの収穫もそろそろラストスパートに入って来ました。真太陽をいっぱいに浴びて島で育てられたサトウキビは、
ハーベスタで刈り取られて(手刈りもしています)ダンプに山積みして、製糖工場へと搬入されるのですが、製糖工場では沖縄土産でよく見かける、黒糖だけを作っているわけではないことを知っていましたか!。
今回の「あんちーかんちー」では、そんな製糖工場の秘密を探るべく、城辺の砂川にある宮古製糖へと工場見学へ行ってきました。
宮古地区にある製糖工場は、今回訪れた宮古製糖は城辺工場の他に、伊良部島の伊良部工場と、多良間島の多良間工場。そして下地にある沖縄製糖の2社4工場があります。そのうち多良間島の工場では黒糖を作っていますが(なので多良間産の黒糖は美味しいと評判なのかもしれません)、他の3工場は粗糖(そとう)を作っています。粗糖とは原料糖とも呼ばれ、いわゆる砂糖、精製糖の原料です。砂糖は砂糖だろといわれそうですが、白くもなければサラサラもしていなません。
まずは、西城小学校の子供たちと一緒に砂糖の種類についてお勉強してみましょう(放課後子供教室の一環で、地元産業のひとつである製糖工場の見学会)。
小袋に入ったサンプルは左からコーヒーシュガー、上白糖、グラニュー糖、三温糖、氷砂糖。似ているけどそれぞれちょっとずつ違います。けれど、どれも粗糖から作られています。つまり、元は一緒ということになります。
では、ここで作られている粗糖はというと、茶色っぽくて少ししっとりとしています。味もどことなくサトウキビの風味がするような感じがしました。ちなみに粗糖と三温糖は似ているように思えますが、三温糖は上白糖と同じ製法で作られ、粗糖から分離させた製糖用糖蜜(上白糖は分離させることで白くなっている)と再加熱させ、再結晶化させることでカラメル成分が作られ、特有の色がついているだけなので、成分的には三温糖と上白糖はほとんど変わりませんが、元々の原料である粗糖とは異なる“砂糖”なのです(粗糖はきび砂糖などの名称で流通しており、成分に糖蜜が含まれているので区別することが出来ます)。もうひとつ付け加えておくと、黒糖は粗糖にするの前のサトウキビの絞り汁を煮詰めて作られています。
出来るだけ簡単に、出来るだけ判りやすく、レポートを書こうとしていますが、予想以上に砂糖は奥が深いです。実際に体験し勉強してみると興味深く、とても面白い工場見学となりました(残念なのはきっちり、見学コースが作られていない点)。それではこれより工場見学の部に入りますが、その工程はなかなかに複雑なのです。かなり色々とはしょってご紹介していることを先に断っておきます。
畑で刈られたサトウキビは、積んで来たダンプごと秤にかけられて数量の計測がされたり、山ごとにサンプルを抜き取られた糖度をチェックされたり、トラッシュ(葉などゴミになる部分)の含有量が計量されます(ゴミの割合が多いと総量が減る)。これによって運び込まれたサトウキビの値段が決定されます。
次にケーンヤード(籐や竹、サトウキビなど節のある植物の茎をケーン[cane]と呼ぶ)に搬入された、大量のサトウキビを重機でつかんで装置(フィードテーブル)へ投入され、巨大扇風機でトラッシュを吹き飛ばして不純物を取り除きます(キビの山に紛れ込んだ、ワイヤーやボルト、鎌なども金属探知機を使って探し出して取り除きます)。
ここからはラインへと入ります。機械(ケーンキャリヤー)に投入されたサトウキビは、カッターで細かく切断されます。この段階ではどことなく、まだ元の形が判るサトウキビが流れていますが、このあとさらに切られ砕かれ、繊維状にされて工場の中へ運ばれてゆきます。
繊維状にまで砕かれたサトウキビは巨大なローラーで搾られます(都合、4回搾り取られる)。いわゆるサトウキビジュースの出来上がりです。搾りカスはバガスとして燃料に廻されます。余談ですが「バガス」はてっきりその音感から、勝手に島言葉だと思っていたのですが、ちゃんとBagasse(意味もそのまま、サトウキビなどの搾りカスのこと)という英語でした。
工場内は想像して以上に巨大な空間が広がり、さまざまな配管やダクトが縦横無尽に配置され、あちこちでモーターなどの機械類が轟音をあげて動き続けています。その隙間を縫うように階段を昇り降りしたり、キャットウォークを歩いて人は移動します(サトウキビの精製が優先の設計なので当たり前なのですが・・・)。
搾りカスのバガスを燃やして水蒸気を作り出します。水蒸気は搾ったサトウキビの汁を加熱するために使われるとともに、タービンを廻して発電を行って工場内の機械を動かす、すべての電気を生み出しています。なにげに製糖工場って無駄のない、素晴らしい設計になっていることにびっくりしました。
いったん外(工場の裏手)へと出て、ちっょとだけ凄まじい騒音から開放されました。製糖期のおよそ60日だけとはいえ、これが24時間稼動しているのですから作業されている方々も大変です。
発電設備の脇に掲げられていた安全十訓の一番目に書かれていたのは「家庭はいつも円満に」でした。いい仕事はいい環境からという、究極の安全標語ではないでしょうか。
続いてはサトウキビの搾った汁を加工してゆく工程に入ります。搾り汁をジュースヒーターで加熱させ、石灰を添加して不純物を沈殿させて取り除きます。取り除いた最後の搾りカスはケーキと呼ばれ、畑の肥料となります。
ろ過された搾り汁は効用缶という、真空を利用して低温沸騰させる機械を使って、水分を蒸発させ濃度を上げてゆきます(高山などで気圧が低くなると100度になる前に、水が沸騰する原理と同じ)。
水分を飛ばして濃度を高くした汁(シラップ。イメージとしてはシロップなのだけど、業界用語なのか正しい英語の発音に近い表現なのかは不明?)は、結晶缶に移されて砂糖の結晶を育てる工程に進みます(こちらも効用缶と同じで真空を利用しています)。似たような円柱形のタンクがあちこちに並んでいるので、どれがなんだったかだんだん判らなくなってきます。
工場内にあるさまざまな機械やタンクの中で、一番格好よくて、思わず萌えるタンクを見つけてしまいした(巨大構造物萌え)。木製のクリスタライザー(助晶機)というもので、創業以来30年以上も使われているものだそうです(三番搾りとなる三番蜜で結晶化させたものは製品には向かないので、次の一・二番蜜の結晶の種を作る機械)。
ラストスパートに近づいてきました。結晶化させた砂糖を遠心分離機にかけて、粗糖と糖蜜に分離します(いわば脱水機と同じ要領です)。分離された糖蜜(廃蜜)にもまだ糖分が含まれていますが、採算性の問題からこれ以上の結晶化は行わなわれませなんが、アルコール(醸造用アルコールの原料)や飼料の原料となります。ちなみに
「味の素」はこの廃蜜を微生物で醗酵させて作られています。
脱水ならぬ、脱廃蜜された粗糖が遠心分離機から出てきました。この遠心分離機の回転速度が速ければ速いほど、より白い粗糖に仕上がるのだそうです。
完成した粗糖はシュガーエレベーターで次々と上へと運ばれ、タンク(シュガーヒン)に蓄えられます。蓄えられた粗糖は定期的にダンプに積み込まれて工場をあとにします。
製糖工場での作業はここまで。ちなみにケーンヤードからラインに投入されたサトウキビが、ぐるりと工場をひと巡りして粗糖になるまで、およそ12時間ほどかかるそうです。
島で生産された粗糖は、その後どうなるのかというと、港でダンプで船に積み替えられ島を旅立ちます。内地の
精製糖工場へ運ばれ、
高度に精製(基本的には粗糖の精製と似た工程)を行ってお馴染みの真っ白な砂糖が作られます。
ざっくりとサトウキビから粗糖、そして砂糖までを駆け足でたどってみました。サトウキビの島に暮らしていながら意外と知らないことが多く、今回の製糖工場の見学はとても勉強になりました。あれこれもっと詳しく書きたいところなのですが、実際の工程はもう少し複雑なので(圧搾工程や結晶缶などは繰り返して行われながら、差し戻す工程があったりする)、見やすい
製造工程図(出典:翔南製糖)のHPがありましたので、興味のある方はコチラもチェックしてみてください。
製糖工場の稼動期もそろそろ終盤(今月の20日過ぎにはほぼ終了の予定)。工場の近くを通ると香ってる、サトウキビの匂いが嗅げるのもあと少しです。
[資料]
沖縄県黒砂糖協同組合・沖縄県黒砂糖工業会
社団法人沖縄県糖業振興協会
翔南製糖工務部
三井製糖
株式会社 マツオ(鹿児島の製糖機械製作メーカー)
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(文+写真+編集:モリヤダイスケ 協力:宮古製糖+砂川観光)