2010年10月15日
西原のミャークヅツ

宮古島の北、池間島には自らを「誇り高き池間民族」と呼ぶ人たちがいます。池間島を祖とする海洋民族で、伊良部・佐良浜、平良・西辺へと分村してもなお高い固有の民族性を持っています。秋のこの季節は、誇り高き池間民族の祭典とも呼ばれるミャークヅツが催されます。2008年池間島のミャークヅツ、2009年佐良浜のミャークヅツと、3年目のレポートは西原のミャークヅツに迫りたいと思います。

西原は1874年(明治7年)に池間島から分村して村建てされた集落で、この地にも「誇り高き池間民族」のアイデンティティを反映するミャークヅツがあります。11日から三日間の日程で始まった西原のミャークヅツの見どころは12日の中日に行われるパレードです。
今年はあいにくの雨模様(ミャークヅツで雨が降るのは珍しい気がします)となってしまいましたが、男衆が集落へと繰り出して五穀豊穣の旗頭を掲げ、辻々でクイチャーを踊ってミャークヅツを盛り上げます。
池間見民族が分村して伝播してゆく中でミャークヅツも少しずつ変化したのでしょう。西原のミャークヅツは、元祖である元島の池間島とも、対岸の佐良浜とも違った形で行われています。

時折、激しく降る雨をものともせず、男衆たちが集落のメインストリートに姿を現しました。パレードの先頭は黒い上下のスーツにタオルのハチマキをした、ミャークヅツ一年生の集団。西原では数え五十歳からミャークヅツに加わることが許されるので、今年が始めての参加となります(池間は五十五歳から、佐良浜は四十七歳と五十歳からと地区ごとにばらつきがある)。
続いて、白いYシャツにスラックス、白いタオルのハチマキというそろいの正装の男衆がぞろぞろとやって来ました(池間ではYシャツとスラックスにハッピが正装。佐良浜では地区別におそろいのチームTシャツを着用します)。

パレードの終点は集落の中にある大きなガジュマルの木が茂る広場(ジャー)。真ん中にある土俵を中心に輪になってクイチャーを踊ります。広場には傘を片手に観客(祭りの主役は男たちなので、地域の女性陣がつめかけた)が集まり盛り上がり始めたかと思いきや、前半戦の終了を司会が告げ、クイチャーの輪が解けて休憩となった。ちょっと拍子抜けしてしまったが、ひと休みする男衆は広場の周囲で談笑しながら、廻って来るヤカンの御神酒を湯飲みでぐいっといただいていました(西原はミルク酒ではない)。

やがてツカサたちが静々と現われ土俵の周囲を清め終えたところで、いよいよ後半戦が再開。スーツ姿のミャークヅツ一年生たちがずらりと並び、ひとりひとり司会から「◎◎オジィ」とフルネームで呼ばれると、手を上げて大きな声で返事をして居並ぶ先輩方々にあいさつの礼や、ヒヤサッサとクイチャーをひと節踊ってみせたりするのですが、司会進行とのコミカルな宮古口でのかけ合いに会場からは大きな笑いが沸き起こります。
それにしても数え五十歳でオジィと呼ばれてしまうには、現代社会の平均寿命を考えたら若すぎるような気もします(最もライフサイクルの短い宮古では、40代で孫がいることもままあるので、オジィなのはあながち間違いではないかもしれませんが・・・)。

続いて奉納角力が行われました。宮古角力はスパッと技が決まらないと勝敗がなかなかつかないことが多く、角力そのものは面白いのだけど、どうも取り直しの多い緩い展開となってしまことから、途中で司会進行が交代して遅延を取り戻す強引さを発揮(それはそれで面白かった)。角力の勝名乗りはクイチャーをひと節踊って表現するのはミャークヅツならではではないでしょうか。
西原のミャークヅツ、この日のフィナーレはみんなでクイチャーを楽しく踊って閉幕。三々五々、男衆はほろ酔い加減で家路へとつきます。池間民族のアイデンティティを物語るミャークヅツの起源は定かではありませんが、池間島で十八世紀に始まったと云われているそうです。
漢字では「宮古節」と書くようで、宮古(ミャーク)=はこの世、節(ヅツ)=節目の意味(シツの宮古口がスツとなることから、本来ならミャークズツと表記と考えられます)があり、現世を大いに楽しむ月ということのようで、島内外からも多くの男たちが生まれ故郷に結集して、五穀豊穣、子孫繁栄を願って、盛大にお祝いをするという池間民族の伝統のお祭り。
最後に余談として。
「西原」と「西辺」。なんとなく似ているようで微妙に違う地域区分です。「西原」と書く時は誇り高き池間民族の伝統、ミャークヅツを行うこの集落を示しますが、「西辺」と書けば、西原、大浦、福山の3地区を総称しています。明確な例としては、西原にある小中学校は地域名の西辺を名乗っていることで判ります。
大浦は渡来した唐人が治めていた城跡も残る古い集落、福山は島尻地区の一部だった散村を集めて作られた集落と、それぞれの集落の成り立ちが違います。
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池間島のミャークヅツ(2008年)
佐良浜のミャークヅツ(2009年)
(文+写真+編集:モリヤダイスケ)
Posted by あんちーかんちー編集室 at 09:00│Comments(0)
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